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大阪地方裁判所 昭和60年(ワ)5558号 判決

一 請求原因1(原告が本件実用新案権を有すること)については、当事者間に争いがない。

二 次に、請求原因2(一)、(二)(本件考案の構成と作用効果)についてみるに、成立に争いのない甲第二号証(本件公報)によれば、本件考案の構成要件は、(一)(1)ないし(3)のとおり分説するのが相当であると認められる。被告らは、右(1)、(2)については、本件考案の出願前に公知であつたから、構成要件とならないと主張するが、明細書の実用新案登録請求の範囲に記載された構成の一部に出願前に公知の技術が含まれているからといつて、その部分が当該考案の構成要件から除外されると解すべきでないことはいうまでもないことであり、被告らの主張は失当である。

そして、右甲第二号証によれば、本件考案は、右の構成により同(二)(1)ないし(5)記載の作用効果を奏するものであると認めることができる。

三 同3(被告会社が被告製品を業として製造、販売していること)及び同4(被告製品の構成)の各事実は、当事者間に争いがない。

四 進んで、同5(本件考案と被告製品の対比)について検討する。

1 被告製品は、表装用等の加熱プレスであるから、この点では本件考案と同じである。

2 被告製品の構成(1)、(2)がそれぞれ本件考案の構成要件(1)、(2)と同一であることは明らかである。

3 被告製品の構成(3)は「…基盤上に設けられた受台が該基盤と受台との間における側方前部に取り付けた枢軸を支点として水平方向へ回動させることにより、該基盤に対して前方に引き出し得るようにされている」というものであるが、右構成は、本件考案の構成要件(3)の「…基盤上に設けられた受台が該基盤に対して前方に引き出し得るようにされていること」に該当するものというべきである。

被告らは、本件考案の構成要件にいう「前方に引き出す」とは、二つの把手を両手で持つて前方(手前)へ直線的に引き出すことをいうと解すべきであり、被告製品は受台を「軸回転式」にしたものであるから本件考案の構成と異なると主張する。しかし、前掲甲第二号証によれば、本件考案の明細書(以下「本件明細書」という。)の「実用新案登録請求の範囲」には「受台が該基盤に対して前方に引き出し得るようにされている」と記載されているだけで、受台を引き出す方法については何らの限定もなされていない。被告製品のような「軸回転式」の構成のものであつても、基盤上に設けられた受台を基盤の前方へ引つ張つて出せるようになつていることには違いないから、被告製品のそれが、右の「前方に引き出し得るようにされている」という文言に当てはまることは明らかである。もつとも、本件明細書の「考案の詳細な説明」欄及び図面を見ると、前掲甲第二号証によれば、本件考案の実施例としては、受台前面に備えられた把手を引つ張つて受台を基盤から前方へ直線的に引き出す「引出式」受台の構成だけが示されているものと認められる。しかし、明細書に記載された実施例は、当該考案の構成が実際上どのように具体化されるかを示すものであり、実用新案登録出願人が最良の結果をもたらすと思うものをなるべく多種類掲げて記載することとされているけれども(実用新案法施行規則二条、様式第三の13ロ参照)、それは、あくまで考案の構成の具体化の例示にすぎないから、ある具体的構成のものが実施例に記載されていないからといつて、ただちにその実施例に記載されていない構成のものが考案の技術的範囲に属しないと判断されてはならない。本件考案が受台を前方に引き出し得るようにしたことによる作用効果を本件明細書の「考案の詳細な説明」欄の記載によつて検討すると、前掲甲第二号証によれば、同欄には「…受台を基盤に対して前方に引き出し得る構成とすることにより、該受台上に材料をセツトする場合の作業性の向上を図ると共に、作業者が受台上方に位置する高温の押圧盤に触れることによる危険を防止するように配慮したものである。」(本件公報2欄一八~二三行)、「…該受台上に材料をセツトする場合に上方に位置する押圧盤3が邪魔になることがなく、従つて材料を受台2上に皺や位置ずれ等を生じさせることなく、正しくセツトすることができ、特に作業者が押圧盤下面3aの高温部に触れることが防止されるのである。」(同4欄三六~四一行)、「…受台が基盤に対して前方に引出すことができるから、材料をセツトする場合に加熱押圧盤が邪魔になることがないと共に、作業者が高温の押圧盤に触れることが防止され、従つて作業性及び安全性に優れている利点を有するものである。」(同5欄一六行~6欄一行)との記載のあることが認められる。右の記載を参酌すれば、本件考案の「基盤に対して前方に引き出し得る」受台の構成は、「材料をセツトする場合に加熱押圧盤が邪魔になることがない」、「高温の押圧盤に触れることが防止される」という目的を達成するために採用されたものであるということができる。そして、被告製品における「軸回転式」受台も右の目的を達する構成であることは明らかである。本件明細書の「考案の詳細な説明」欄の記載を検討しても、本件考案が受台を前方へ引き出す構成として、実施例に開示した「引出式」のもの以外を除外するような趣旨を窺うことはできない。その他、本件考案の構成から被告製品のような「軸回転式」受台の構成を除外するように解釈するのを相当とするような事情を認めるに足りる証拠はない。

被告らは、被告製品では、受台を「軸回転式」としたことにより、片手で受台を回転させ、空いているもう一方の手で作品を押さえながらプレス作業をするという本件考案にはない利点があり、また、「引出式」受台の場合のように引出用金具が作業時に作品に引つ掛かつて傷つけるような欠点もないと主張する。しかし、被告製品が採用した「軸回転式」受台が本件明細書の実施例に開示された「引出式」受台と比較して右のような長所を有しているとしても、他方、前記のとおり本件考案が受台を「前方に引き出し得る」ようにした目的を達成し作用効果を奏する以上、右のような実施例との相違点は、被告製品が本件考案の技術的範囲に属しないとする根拠にはならないものというべきである。

したがつて、被告製品の構成(3)は本件考案の構成要件(3)を充足する。

4 被告製品は、上記(1)ないし(3)のような構成を具えた表装用等の加熱プレスであることにより、前記認定の本件考案のそれと同様の作用効果を奏するものということができる。

5 よつて、被告製品は、本件考案の技術的範囲に属するというのが相当である。

五 ところで、被告らは、本件考案は、その出願前から日本国内においても広範囲に販売されていた米国のシール・ドライマウント社製の「ドライマウントプレス」機をそつくり模倣したものにすぎないから新規性を欠くものであり、本件考案の考案者とされている沼谷友信が真正な考案者とはいえないし、被告製品も右「ドライマウントプレス」機を参考にして、これを改良して製品化したものであるから、被告製品が本件実用新案権を侵害することはない旨主張する。

しかし、被告会社代表者(兼被告)本人尋問の結果により真正に成立したものと認める乙第三号証及び同尋問の結果によれば、シール・ドライマウント社製の「ドライマウントプレス」機は、本件考案の出願前から市場に出ており、トグル機構を具えたものであつたが、本件考案のように受台を基盤に対して前方へ引き出すようにした構成にはなつていなかつたことが認められる。したがつて、本件考案が「ドライマウントプレス」機をそつくり模倣した新規性のないものであるということはできないし、同機の存在をもつて、本件考案の考案者とされる沼谷友信が真正な考案者であることを否定する根拠とすることもできない。また、右尋問の結果中には、被告製品は「ドライマウントプレス」機を参考にして製作したとの供述部分もあるが、右供述によつても、被告製品とほぼ同じ機械を被告道免が製作したのは昭和五六年八月ころというのであり、被告製品が本件考案の出願日である昭和五五年九月五日より前から製造、販売され、又はその準備がなされていたというような事実を認め得る証拠はない。

被告らの前記主張は失当である。

六 請求原因6(被告らの責任)のうち、被告道免が被告会社の代表取締役であることは、当事者間に争いがなく、被告代表者(兼被告)本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、被告道免は、被告会社の代表取締役として、その職務の執行に当たり、被告製品の製造、販売を遂行したものと認められる。

そして、被告道免は、実用新案法三〇条、特許法一〇三条の規定により、本件実用新案権の侵害行為について過失があつたものと推定される。

そうすると、被告らは、民法七〇九条、四四条一項の規定に基づき右侵害行為によつて原告の被つた損害を賠償する義務があるというべきである。被告らは、被告製品の製作開始に当たつて、本件実用新案権を侵害するか否かにつき弁理士らに検討させ侵害しないとの結論を得て製作を開始した旨主張するが、たとえ、そのような事実があつたとしても、そのことは、それだけでただちに右過失の推定を覆すに足るものではない。

七 請求原因7(原告の損害)について検討する。

1 まず、原告は、被告会社が本件実用新案権侵害行為によつて得た利益の額が原告の被つた損害の額と推定されると主張する。

(一) しかるところ、いずれも成立に争いのない甲第二七ないし第五三号証及び弁論の全趣旨によれば、被告会社は、昭和六〇年二月ころから昭和六一年一一月ころまでの間に、訴外フセオ商事株式会社から被告製品を合計一一二台、代金総額四七四六万一五〇〇円で仕入れたことが認められる。

(二) そして、いずれも成立に争いのない甲第五五号証、第五六号証の一ないし一六、第五七号証の一ないし五、第五八号証の一ないし一六、第五九号証の一ないし一三、第六〇号証の一ないし八、第六一号証の一ないし四、第六二ないし第七八号証、被告会社代表者(兼被告)本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、被告会社は、右仕入後、昭和六二年六月末ころまでの間に、右一一二台のうち在庫品一二台を除く一〇〇台を、販売したり営業活動の一環として委託販売目的等のため貸し渡し又は譲渡したこと、そのうち八九台は最高七五万円から最低五七万円で売買されたものであり(被告会社が八九台を販売したことについては争いがない。)、その販売代金の合計額は五四一二万円とな

ることが認められる。そして、右事実や弁論の全趣旨に照らすと、残り一一台分については、それらはいずれも少なくとも右最低額五七万円(合計六二七万円)で売買されうるものであつたと推認できるというのが相当である。

(三) ところで、原告は、被告会社が被告製品の販売によつて得た粗利益が原告の損害と推定される(実用新案法二九条一項)というが、にわかに賛同できない。右規定は損害額の立証の困難さを考慮したものではあるが、あくまでも一般民事法上の損害賠償に関する規定であることには変りがないと解されることからすると、右法条にいう利益とは、純利益をいうものと解するのが相当である。

しかるところ、原告は、右純利益については何ら主張せず、被告らは、被告製品の販売による純利益はなく、むしろ赤字である旨主張するが、被告ら主張の計算方法では被告製品の販売と直接関係のない営業に要した費用も被告製品の粗利益から控除することになりかねず、妥当でない。そして、他に、右純利益の算定に関する主張、立証はない。

(四) そうすると、原告の実用新案法二九条一項による損害額推定の主張は採用できないというほかはない。

2 しかしながら、被告らは、前記のとおり、本件実用新案権を侵害したものであるから、実用新案法二九条二項により実施料相当額を原告の被つた損害の賠償として支払う義務がある。

一 しかるところ、実施料相当額の算定方法については、本件では他に拠るべき資料もないので、原告が主張し、当裁判所に顕著な国有特許権方式(官有特許運営協議会決定、昭和二五年二月二七日特総第五八号、改正昭和四二年五月二六日特総第五三三号、改正昭和四七年二月九日特総第八八号、特許庁長官通牒・国有特許権実施契約書参照)による実施料算定方法を採用することとする。

そして、前記1(二)に判示したとおり、被告会社は、八九台を販売したほか、一一台についても営業活動の一環として委託販売目的等のため貸し渡し又は譲渡したと認められるとすれば、被告会社は、右合計一〇〇台について本件考案を「実施」したものというべきである。

そして、実施料算定の基礎となる販売価格としては、現実に販売された八九台については、前示現実の販売価格によるのが相当であり、その他の一一台については、前示販売されうる価格によるのが相当である。そうすると、右算定の基礎となる一〇〇台分の販売価格は、合計六〇三九万円となる。

また、実施料率については、原告主張のとおり三パーセントとするのが相当である。

以上のとおりとすると、被告らが原告に支払うべき実施料相当額は、前記の被告製品の販売価格総額六〇三九万円に〇・〇三を乗じて得られる一八一万一七〇〇円となる。

(二) 被告らは、被告会社が販売した八九台のうち五台については不良品等による返品や販売先の倒産等の事情により代金を回収できなかつた旨主張し、成立につき争いのない乙第一九号証、いずれも弁論の全趣旨により真正に成立したものと認める乙第二六号証の一ないし三、第二七ないし第二九号証及び弁論の全趣旨によれば、右事実は肯認できる。しかし、それらのものも、一旦は現実に販売されたものであり、本件考案を「実施」したことには変りがないと考えられることからすると、右事実は、前示認定、判断を左右するものではないというのが相当である。

八 以上の次第で、原告の請求は、被告会社に対し被告製品の製造、販売等の差止めを求め、被告ら各自に対し損害金一八一万一七〇〇円及びこれに対する不法行為の後である昭和六二年七月一日から支払済みに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、右の限度で認容し、その余は失当であるから棄却することとする。

〔編注1〕本件における請求原因は左のとおりである。

1 原告は、次の実用新案権(以下「本件実用新案権」といい、その考案を「本件考案」という。)を有している。

考案の名称 表装用等の加熱プレス

出願日   昭和五五年九月五日(実願昭五五―一二六八四四)

公告日   昭和五八年一月二七日(実公昭五八―四九六〇)

登録日   昭和五八年一一月一六日

登録番号  第一五一四八九三号

実用新案登録請求の範囲 別添実用新案公報(以下「本件公報」という。)該当欄記載のとおり

2 本件考案の構成要件及び作用効果は、次のとおりである。

(一) 構成要件

(1) 基盤上に受台が設けられ、かつ該受台の上方にヒーターを内装した加熱押圧盤が受台に対して対接、離反可能として支持された加熱プレスであつて、

(2) 該押圧盤の支持フレームが上記基盤に一体の固定フレームに一端を枢着された揺動アームの他端部にハンドルレバーと共に枢支され、かつ該ハンドルレバーに設けられた屈曲部と上記固定フレームがリンクで連結されていることにより、押圧盤の支持機構がトグル機構を構成するようになされており、

(3) かつ上記基盤上に設けられた受台が該基盤に対して前方に引き出し得るようにされていること、を特徴とする表装用等の加熱プレス。

(二) 作用効果

(1) ハンドルレバーを操作することによつて、加熱押圧盤をその支持フレームを介して持ち上げることができる。

(2) 右(1)の状態で受台を基盤に対して前方へ引き出すことができるので、引き出した受台上面に被加熱材料を簡易に、かつ、しわ等が発生しない適正な状態でセツトできる。また、セツト時においては、受台が加熱押圧盤よりも前方へ引き出されているので、該押圧盤が邪魔にならず、したがつて、該セツト作業を効率良く行うことができると共に、作業者が該押圧盤の高温部に触れる等の作業上の危険性を解消することができる。

(3) 右(2)のセツト作業終了後において、受台を基盤上の元位置に押し込むことにより、被加熱材料をその適正なセツト状態を保つて、加熱押圧盤と受台との間に嵌挿配置することができる。

(4) 右(3)のセツト状態で、ハンドルレバーを操作することにより、加熱押圧盤をトグル機構の倍力作用によつて受台側へ強圧させることができるから、被加熱材料に所要の加熱押圧処理を行うことができる。

(5) 右加熱押圧処理は、書画、拓本等の諸作品を表装するに際して、これを補強紙で裏打ちする場合等において、特別の熟練技術を要することなく、かつ極めて短時間に行うことができる。(以下省略)

〔編注2〕本件における目録は左のとおりである。

目録

別紙図面第1ないし第3図のように基盤1上に受台2が設けられ、かつ該受台2の上方にヒーターを内装した加熱押圧盤3が受台2に対して対接、離反可能として支持された加熱プレスであつて、上記加熱押圧盤3の支持機構がトグル機構を構成するようになされており、かつ、上記基盤1上に設けられた受台2が一側部前方に設けた枢軸Xを支点として水平方向へ回動させることにより、該基盤1に対して第3図に鎖線にて示すように前方に引出し得るように構成されたもの。

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〔編注3〕本件考案の図面は左のとおりである。

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